【1】書式概要
この契約書は、貴金属商や投資商社が顧客に対して金地金を販売し、その後の保管管理をサービスとして提供する際に使用する取引契約です。購入した金をどのように管理するのか、手数料はいくらかかるのか、問題が生じた時の対応はどうなるのかといった取引の全ての基本ルールを、売り手と買い手の双方が同意するかたちで書面に残します。
金の現物販売は、単に商品の引き渡しだけでなく、その後の保管や売却に関わる多くの手続きが発生します。銀行系の貴金属業者や独立系の金商が顧客から購入資金を受け取り、実際に金地金を仕入れ、倉庫やロンジャなどの保管施設に預けるといったシーン、あるいは既存顧客が追加で金を購入する際など、様々な局面で必要となります。この書式はそうした取引にあたって、トラブルを未然に防ぎ、双方の権利と責任を明確にするために存在しています。
特に金市場は毎日価格が変動する商品であり、購入時と返還時で金額がいくら変わるのか、どちらが手数料を負担するのか、火災盗難といった予期しない事態が起きた場合は誰が責任を持つのかといった点を、事前に定めておくことの重要性があります。カスタマイズが容易なWord形式で提供されているため、販売会社の名前や特定の条件を自由に記入でき、そのまま顧客との契約に用いることができます。
【2】条文タイトル
第1条(契約の目的) 第2条(購入対象物) 第3条(代金) 第4条(分別管理) 第5条(リスク説明) 第6条(保険) 第7条(売却) 第8条(返還請求) 第9条(報告義務) 第10条(費用負担) 第11条(秘密保持) 第12条(紛争解決) 第13条(その他の重要事項)
【3】逐条解説
第1条 契約の目的
この条項は、売り手が何をするのかを端的に述べた部分です。顧客が指定した金を自分たちが買い付けて、自分たちが指定した安全な倉庫に預けて管理するというのが、この取引の基本的な役割分担になります。単に金を売ったら終わりではなく、その後ずっと保管・管理をしていくサービス提供者としての立場を明記することで、顧客も安心できます。
第2条 購入対象物
ここでは買う金がどのレベルの品質なのか、何グラム買うのか、予定価格がいくらなのか、いつ買うのかといった具体的な中身を決めます。現実には金市場は毎日変動するので、契約時点での予想価格はあくまで参考値で、実際の購入時点での相場によって最終的な金額が変わることを明記しておくのが重要です。例えば契約時には100万円の予定だったけれど、実際の購入日には相場が上がっていて105万円になった、というようなことが起こり得るため、この保護条項があります。
第3条 代金
金を買うための代金そのもの、その後毎年払う保管料、その他の手数料類、そしてこれらをいつまでに、どうやって払うのかを定めます。年間の保管手数料は大概固定額で、毎年何月かに請求されるパターンが多いです。売り手側としては、顧客が金を持っている限りこの保管手数料が継続的に入ってくるので、長期顧客ほど収益源となります。支払い期限を明確にすることで、請求ミスや支払い遅延のトラブルを減らせます。
第4条 分別管理
ここは顧客にとって特に重要な条項です。売り手側の会社がもしも経営難に陥ったとしても、顧客の金は売り手の会社のお金と別々に、きちんと独立した帳簿で記録された状態で保管されるという約束です。銀行やロンジャといった外部の保管機関に預けることで、万が一売り手の会社が倒産しても、顧客の金が差し押さえられたり失われたりしないようにする仕組みになっています。これは顧客資産の保護の観点から、非常に大切な保約です。
第5条 リスク説明
金の価格は上下するので、買った時より安くなる可能性があります。また、保管施設が火災や盗難にあったり、経営破綻する可能性もゼロではありません。保険が付いていても完全には100%保証されないことを事前に伝えることで、後々「聞いてなかった」というクレームを防ぎます。さらに毎年払う保管料や保険料は、実質的な利益を減らす要因になるため、その点も理解してもらう必要があります。顧客が納得した上で取引を開始することが大切です。
第6条 保険
保管している金が火災や盗難で失われないよう、保険に入ることを定めています。保険料を売り手が負担するか、顧客が負担するかは、商売のやり方によって変わってきます。売り手が負担する場合は他社との差別化ポイントになり、顧客が負担する場合は保管料とは別に追加費用が発生します。どちらにしても、保険の種類と金額がいくらかについて、顧客にちゃんと知らせることになっています。
第7条 売却
顧客が「今、金を売りたい」と言ってきたときのルールです。申し出があってから何営業日以内に売却手続きを始めるのか、売却時の値段は何を基準にするのか、手数料がいくらかかるのかを決めておきます。金は変動商品なので、売却指示があってから実際に売却されるまでの間に価格が変わることもあります。その点を踏まえて、実際の売却実行時点の相場で売ることにするのが一般的です。
第8条 返還請求
顧客が金地金そのものを手元に欲しいと言ってきたときの手続きを定めています。いつでも、どんなときでも返還請求ができること、申し出があってから何営業日以内に返すのか、返還の時の手数料がいくらか、送料はどうするか(送ってもらうか、店舗で受け取るか)などを明記します。返還にかかる送料や梱包費も実は結構な額になることがあるので、事前に決めておくことが大切です。
第9条 報告義務
顧客が今どれだけの金を持っているのか、その金の今の価値がいくらなのか、手数料はどれだけ払ったのかといった情報を、定期的に知らせることになっています。最低でも3ヶ月に1回は報告書を送ることで、顧客は自分の資産状況を把握できます。顧客が「ちょっと確認したいんだけど」と聞いてきたときも、すぐに答える準備をしておくルールです。これにより顧客の安心感が高まり、長期的な信頼関係が築けます。
第10条 費用負担
金を買う時の手数料、毎年の保管料、売却するときの手数料、返した時の送料、その他もろもろの費用は、特に別途の約束がない限り、顧客が払うことになっています。この条文で明示することで、後々「こんな費用は知らなかった」というトラブルを減らせます。商売の採算性を考えると、費用負担の明確化は非常に重要です。
第11条 秘密保持
売り手も買い手も、相手の個人情報(名前、住所、生年月日など)や取引の内容(いくら買ったのか、どんなやり取りをしたのか)を、法律で特に求められない限り、第三者に喋ったり書いたりしてはいけません。プライバシー保護とコンプライアンスの観点から、重要な条項です。
第12条 紛争解決
もし売り手と買い手の間で意見が合わなくなったら、まずは二者で話し合って解決することを目指します。話し合いでだめな場合は、裁判所に出向いて決着をつけることになります。どこの裁判所で争うのかをあらかじめ決めておくことで、手続きをスムーズに進めることができます。
第13条 その他の重要事項
売り手が正規の金融業者であることを宣言し、日本の法律に基づいてこの契約が成り立つことを明記しています。また、この契約書に書いてないことについては、関連する日本の法律が適用されることになります。顧客も売り手も、この契約に署名することで、書かれた内容に同意したことになります。
【4】活用アドバイス
まず大事なのは、契約を交わす前に顧客としっかり話し合うことです。金の数量や金額、手数料がいくらなのか、返してほしいと思ったときの手続き、保管施設がどこなのかといった基本的な項目は、この書式の空欄部分を埋める際に、必ず顧客と確認してください。
次に、この書式はカスタマイズが可能なので、自社の営業方針に合わせて調整しましょう。例えば返却にかかる日数、手数料の額、報告書を送る頻度など、会社によって違う場合があります。その部分をあらかじめ社内で決めておいて、書式に反映させることで、全ての顧客との取引がルール通りに進みます。
また、記入漏れは非常に危険です。金額や日付、会社名や個人名の欄は絶対に空いたままにしてはいけません。後から「何月にいくらで買ったのか記録に残ってない」というトラブルを防ぐためです。さらに、署名押印の欄も重要です。売り手と買い手の双方が署名することで、初めてこの契約が効力を持ちます。
定期的に顧客へ報告書を送ることを忘れずに。これはトラブル防止だけでなく、顧客サービスとしての価値も高く、長期顧客化につながります。スケジュール管理をしっかり行い、3ヶ月ごとの報告が習慣化するようにしましょう。
最後に、この書式が完璧だと思わず、実際の営業の中で問題が出てきたら都度改良していく柔軟性も大事です。法務の専門家に相談しながら、自社の実情に合った形に進化させていくくらいの気持ちで使うと、より実用的になります。
【5】この文書を利用するメリット
このテンプレートを活用することで、何よりもまず時間が大幅に節約できます。一からこのような契約書を作成しようとすれば、法務知識がない担当者は数週間かかることもあります。このテンプレートがあれば、会社名や数字を埋め込むだけで、その日のうちに契約の準備が整います。
次に、トラブル防止という観点から見ても、メリットは計り知れません。金の売買は高額取引であり、後々のクレームや紛争に発展しやすい領域です。しかし、事前に金額、手数料、返金手続き、リスク説明といった全ての取り決めを紙に残しておけば、後々「そんな話は聞いてない」という言い合いを防げます。顧客側も、書面に何が書いてあるかをきちんと読めば、自分がどういう条件で買ったのか、いくらの手数料を払うのかが明確にわかります。
さらに、顧客の信頼獲得という点でも役立ちます。ちゃんとした契約書を用意している企業は、いい加減な業者だと思われません。特に金という高額な資産を扱う業界では、透明性と信頼性が非常に重要です。プロフェッショナルな書類を提示することで、顧客の不安感が減り、安心して取引できるようになります。
また、複数の営業スタッフがいる場合、全員が同じ契約内容で顧客と取引できるようになります。営業担当者によって説明が違う、という事態を防ぐことができます。社内の統一性が保たれることで、業務がスムーズになります。
最後に、後々の紛争が少なくなることで、会社全体の信用度が上がり、リピート客や紹介客が増えやすくなります。安心できる会社という評判が立つことで、新規営業の効率も上がります。
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