【1】書式概要
この契約書は、山林などの土地と、その土地に生育している立木(樹木)を一括して売買する際に使用する専門的な契約書式です。近年、森林投資や山林活用への関心が高まる中で、立木と土地を同時に取引するケースが増えており、そのような場面で威力を発揮する実用的な書式となっています。
改正民法にも完全対応しており、現在の取引実務に即した内容で作成されています。単純な土地売買とは異なり、立木という特殊な財産が関わる取引では、代金の内訳や所有権移転のタイミング、危険負担の考え方など、通常の不動産取引よりも複雑な取り決めが必要になります。
実際の使用場面としては、山林を所有する個人や法人が、その土地と立木を一括して第三者に譲渡する場合、林業事業者が山林の購入を行う場合、相続で取得した山林を処分する場合、投資目的で山林を購入する場合などが想定されます。また、立木だけを別途評価して取引する必要があるため、一般的な土地売買契約書では対応できない特殊性があります。
この契約書を使用することで、立木の樹種、材積、本数、樹齢といった詳細な情報を明確に記載でき、後日のトラブルを防止できます。消費税の取り扱いについても、土地部分(非課税)と立木部分(課税)を明確に区分して記載する構成となっており、税務処理の面でも安心してご利用いただけます。
【2】逐条解説
第1条(基本合意)
この条文は契約の根幹を定めるもので、売主が立木付きの土地を買主に売り渡すという基本的な合意を明文化しています。単純な土地売買と異なり、土地と立木という性質の異なる財産を一体として取引することを明確にしている点が特徴的です。例えば、杉林が植えられた山林を購入する場合、土地の所有権だけでなく、その上に生育している杉の木も含めて取引の対象となることを確認する条文です。
第2条(売買代金)
売買代金の総額と内訳を詳細に規定した条文です。土地代金と立木代金を明確に区分し、さらに立木部分にかかる消費税についても別途明記する構造となっています。これは税務上の取り扱いが土地(非課税)と立木(課税)で異なるためです。実際の取引では、土地評価額と立木評価額をそれぞれ専門家に算定してもらい、適正な価格配分を行うことが重要になります。
第3条(支払方法)
代金の支払いスケジュールを定めた条文で、手付金の支払いと残代金の決済時期を明確にしています。特に重要なのは、残代金の支払いと引渡し、所有権移転登記を同時に行うという同時履行の原則を採用している点です。山林取引では現地確認が重要なため、決済前に買主が実際に現地を視察し、立木の状態を確認することも一般的です。
第4条(引渡し)
物件の引渡し条件を規定した条文です。「現状有姿」での引渡しという記載により、売主は現在の状態のまま物件を引き渡せばよく、特別な整備等は不要であることを示しています。山林の場合、境界確定が困難なケースも多いため、引渡し前に境界確認作業を行うことも実務上は重要です。また、立木の本数や材積についても、引渡し時に改めて確認することが推奨されます。
第5条(所有権の移転)
所有権移転のタイミングを明確にした条文です。土地については登記による対抗要件が必要ですが、立木については登記制度がないため、実際の引渡しによって所有権が移転することになります。この条文では土地の登記時に一括して所有権が移転すると規定することで、取引の明確性を確保しています。
第6条(契約解除)
債務不履行があった場合の契約解除権について定めた条文です。山林取引では、天候や季節の影響で引渡し時期が左右されることもあるため、履行遅滞について一定の猶予を設けることも実務上は検討されます。また、立木の状態変化(病気や災害による枯死等)が解除事由になり得るかについても、事前に検討しておくことが重要です。
第7条(違約金等)
契約違反があった場合の違約金について定めた条文です。買主の債務不履行では手付金の没収、売主の債務不履行では手付金の倍返しという一般的な違約金条項を採用しています。山林取引では価格変動リスクもあるため、違約金額の設定は慎重に行う必要があります。例えば、木材価格の急激な変動があった場合の取り扱いについても、事前に協議しておくことが望ましいでしょう。
第8条(危険負担)
引渡し前の物件に関するリスク負担を定めた条文です。山林の場合、台風や山火事、病害虫による立木の被害といった自然災害リスクが特に重要になります。この条文により、引渡し前のそうしたリスクは売主が負担することが明確になっています。被害の程度によっては契約目的の達成が困難になる場合もあり、その際の契約解除権についても規定されています。
第9条(費用の分担)
取引に関わる各種費用の負担について定めた条文です。登記費用は買主負担、抹消登記等は売主負担という一般的な原則を採用しています。公租公課の精算についても日割り計算による精算を規定しており、固定資産税等の負担の公平性を確保しています。山林の場合、森林環境譲与税等の特殊な税金もあるため、それらの取り扱いについても事前に確認が必要です。
第10条(協議事項)
契約解釈に疑義が生じた場合や契約に定めのない事項について、当事者間での協議による解決を定めた条文です。山林取引では予期しない問題が発生することも多いため、この協議条項の重要性は高いといえます。例えば、立木の伐採時期や方法、搬出路の確保といった実務的な問題についても、この条項に基づいて当事者間で協議することになります。
第11条(管轄の合意)
紛争が生じた場合の裁判管轄を定めた条文です。山林は通常、都市部から離れた場所にあることが多いため、管轄裁判所を事前に明確にしておくことで、紛争解決の効率性を確保しています。実際には、物件所在地の最寄りの地方裁判所を管轄とすることが一般的です。