【1】書式概要
企業の安全衛生管理体制構築に必須となる産業医との契約書類を作成する際に役立つ法的要件を満たした契約書テンプレートです。労働安全衛生法および改正民法に完全対応しており、産業医の選任から職務内容、企業側の責務、情報管理、報酬規定まで必要事項を網羅しています。
このテンプレートは、労働者50名以上を雇用する事業場で産業医を選任する必要がある企業の人事・総務担当者や経営者の方々に最適です。産業医との契約において最低限押さえておくべき重要事項をすべて盛り込んでいるため、契約トラブルを未然に防ぎ、安心して産業医との関係を構築できます。
職場の健康管理体制強化が求められる昨今、適切な産業医選任は企業コンプライアンスの要です。本テンプレートは産業医の役割を明確にし、企業と産業医双方の権利義務関係を適切に規定。特に健康情報の取扱いや長時間労働対策、メンタルヘルス対応など現代的な課題にも対応しています。
必要箇所を埋めるだけで即利用可能な書式となっており、弁護士監修のもと法的整合性も確保。産業医との良好な関係構築と法令遵守の両立を実現する実務的な一枚です。
〔条文タイトル〕
第1条(産業医選任)
第2条(職務内容)
第3条(甲の責務)
第4条(情報の取扱い)
第5条(報酬)
第6条(契約の有効期間)
第7条(反社会的勢力の排除)
第8条(協議事項)
第9条(管轄裁判所)
【2】逐条解説
前文
冒頭部分では契約当事者を「甲」(企業側)と「乙」(産業医)と定義し、本契約が労働安全衛生法および関連規則に基づく産業医委託について規定することを明確にしています。産業医選任は法的義務であることから、この前文で契約の法的位置づけを明確にしておくことが重要です。
第1条(産業医選任)
この条項では、企業が労働安全衛生法の規定に基づいて産業医を選任し、産業医がこれを承諾するという契約の根幹部分を規定しています。選任と承諾という双方の意思表示を明記することで、契約としての成立要件を満たしています。労働安全衛生法では50人以上の労働者を使用する事業場での産業医選任が義務付けられていますが、この条文では法令根拠を明示することで法的正当性を担保しています。
第2条(職務内容)
産業医の具体的な職務内容を3つの項に分けて詳細に規定しています。
第1項では労働安全衛生法が規定する産業医の基本職務を列挙。特に重要なのは職場巡視、衛生委員会への参加、健康診断結果に基づく就業上の措置に関する意見具申などで、これらは産業医の法定業務の核心部分です。健康診断やストレスチェックの報告書確認、各種健康管理の企画関与など、実務上必要な業務も明確に規定されています。
第2項では法定の面接指導等について規定。長時間労働者やストレスチェック後の面接指導、両立支援、健康相談など、近年重視されている産業医の役割を明記しています。「依頼することができる」という表現により、企業側の裁量を残しつつも産業医の職務範囲を明確にしています。
第3項では上記以外の職務が生じた場合の対応を規定。業務範囲の明確化と将来的な業務変更への柔軟性を両立させています。
第3条(甲の責務)
企業側の責務を6項にわたって明確に規定しています。特に重要なのは、産業医への権限付与、必要情報の提供、産業医の勧告等の尊重といった点です。
産業医が実効的に職務を遂行するためには企業からの適切な権限付与と情報提供が不可欠です。本条ではそれらを具体的に規定することで、産業医活動の実効性を担保しています。特に第3項と第4項では情報提供義務を明記し、第5項では産業医の勧告等を尊重する義務を課しています。
第6項の周知義務は労働安全衛生規則第14条の4に基づくもので、産業医の業務内容を労働者に周知することで産業医制度の実効性を高める役割を果たします。
第4条(情報の取扱い)
本条は産業医が取り扱う企業情報や労働者の個人情報に関する守秘義務を規定しています。産業保健活動では労働者の機微な健康情報を扱うため、情報管理は極めて重要です。
第1項では産業医の目的外利用禁止を、第2項では企業の同意なき第三者提供禁止を、第3項では個人情報の本人同意なき第三者提供禁止をそれぞれ規定。ただし個人情報保護法の例外規定も考慮されており、法的整合性が図られています。
情報漏洩リスクの高まる現代において、この条項は産業医との信頼関係構築の基盤となるとともに、企業のコンプライアンス体制の一部をなします。
第5条(報酬)
産業医への報酬を3項に分けて規定しています。報酬は契約の重要要素であり、明確な取決めが必要です。
第1項では基本職務に対する月額報酬と実費支給について、第2項では面接指導等の追加的業務に対する時間単価報酬について、第3項ではその他の業務に対する報酬決定方法について定めています。特に基本報酬と追加的業務の報酬を分けて設定することで、業務量に応じた公平な報酬体系を実現しています。
最近の産業医不足の状況を考慮すると、適正な報酬設定は質の高い産業医を確保するために重要です。金額部分は空欄となっており、個別に交渉・設定する形式となっています。
第6条(契約の有効期間)
契約期間を1年間と定め、自動更新条項を設けています。また契約解約の手続きや契約違反時の解除権についても規定。
第1項の自動更新条項は、毎年の契約更新手続きの煩雑さを避けつつ、必要に応じて更新を阻止する余地も残しています。第2項では1か月前の解約予告を要求することで、企業側・産業医側双方の急な契約終了による不利益を防止しています。第3項は契約違反に対する法的救済手段を確保するものです。
産業医の安定的な確保と、状況変化に対応した柔軟性のバランスを図った条項と言えます。
第7条(反社会的勢力の排除)
反社会的勢力との関係排除を詳細に規定しています。現代の契約書では標準的に導入されている条項です。
第1項では契約当事者とその関係者が反社会的勢力に該当しないことの表明保証と、将来にわたる確約を求めています。具体的に「暴力団員等」の定義を置き、5つの類型を挙げて関係性を明確化しています。第2項では違反時の無催告解除権を規定し、迅速な契約関係遮断を可能にしています。
企業コンプライアンスの観点から、この条項は現代の契約書に不可欠です。特に健康情報という機微な情報を扱う産業医との契約においては重要性が高いと言えます。
第8条(協議事項)
契約に定めのない事項について甲乙協議により解決することを定めています。あらゆる事態を契約書に盛り込むことは不可能であり、想定外の事態に対応するための包括的な条項です。「誠実協議条項」とも呼ばれ、当事者間の信義則に基づく解決を促す役割を果たします。
産業医制度を取り巻く法的環境は変化し続けており、契約書作成時に想定していなかった状況が生じる可能性も高いため、この条項は実務上重要です。
第9条(管轄裁判所)
紛争発生時の管轄裁判所を特定の地方裁判所と定めています。これにより、訴訟となった場合の裁判地が明確になります。「第一審の専属的合意管轄裁判所」としているため、他の裁判所に訴えを提起することはできません。
通常は企業の本店所在地を管轄する裁判所を指定することが多いですが、産業医の便宜を考慮した調整も考えられます。この条項は実際に紛争が生じなくても、紛争解決の明確なルールを示すことで当事者の行動規範として機能します。
契約書末尾
契約書2通を作成し甲乙各1通を保有することを明記しています。契約の成立証明と、後日の紛争防止のために重要な部分です。日付記入欄と当事者の記名欄も設けられており、契約の正式な成立要件を満たす形式となっています。