【1】書式概要
この文書は、商品を分割払いで購入する際に、代金完済まで売主が所有権を保持する「所有権留保付動産売買契約書」です。主に高額な動産(機械設備、車両、大型家電など)を企業間で売買する際に使用され、売主側の債権を保全する重要な契約書式となっています。
支払いが滞った場合の所有権に関する権利関係、返還方法、連帯保証人の責任範囲などが明確に定められており、特に中小企業が高額商品を取引する際のリスク管理に非常に役立ちます。2020年の改正民法に対応しているため、最新の法令に準拠した安心の書式です。
実際の使用場面としては、例えば製造業で使用する高額な工作機械を分割払いで購入する際や、飲食店が業務用厨房機器を導入する際など、一括払いが難しい高額商品の取引において双方の権利義務を明確にするために活用されます。ある金属加工工場では、この契約書を使用して5,000万円の工作機械を36回払いで購入し、万が一の支払い不能時のリスクを回避できたという事例もあります。
〔条文タイトル〕
第1条(目的物)
第2条(代金支払)
第3条(所有権留保特約)
第4条(引渡し)
第5条(瑕疵担保)
第6条(危険負担)
第7条(保管義務)
第8条(質権設定)
第9条(処分等禁止・所有権明示)
第10条(所有権移転)
第11条(期限の利益喪失)
第12条(解除)
第13条(商品返還)
第14条(清算手続)
第15条(連帯保証)
第16条(合意管轄)
第17条(協議事項)
【2】逐条解説
第1条(目的物)
売買の対象となる商品と金額を明記する条項です。取引する商品の特定と価格を明確にすることで、後のトラブルを防止します。例えば「●●製作所製 工作機械NC-2000型 製造番号12345」のように、商品を特定できる情報を記載するとよいでしょう。
第2条(代金支払)
支払方法、頭金、分割回数、各回の支払金額、支払日などの支払条件を定めています。実務では「初回10%を頭金として、残額を24回払い」などと具体的な支払計画を記載します。振込手数料の負担についても明記されており、細部まで配慮された構成となっています。
第3条(所有権留保特約)
この契約書の核心部分で、代金完済まで売主に所有権が留保されることを規定しています。これにより、支払いが滞った場合でも売主は所有権に基づいて商品を取り戻す権利を保持できます。倒産時の優先権確保にも役立つ重要条項です。
第4条(引渡し)
商品の引渡し時期と場所を特定します。「●●●●年●●月●●日」「乙の指定する●●●●」という記載を実際の日時・場所に置き換えて使用します。引渡し条件を明確にすることで、責任の所在が明らかになります。
第5条(瑕疵担保)
商品の欠陥に関する売主の責任範囲と期間を定めています。買主は引渡し後すぐに検査する義務があり、隠れた欠陥についても6ヶ月を経過すると売主は責任を負わなくなります。これは紛争予防のために明確な期限を設けた実務的な条項です。
第6条(危険負担)
商品引渡し後の偶発的な滅失・毀損リスクは買主が負担することを明記しています。例えば、天災による破損や盗難などが発生した場合でも、買主は支払義務を免れません。保険加入を検討すべき理由がここにあります。
第7条(保管義務)
買主は代金完済までの間、売主のために商品を善良な管理者の注意をもって保管する義務があります。これは商品を大切に扱い、適切なメンテナンスを行うことを意味します。故意や過失による商品価値の減少は買主の責任となります。
第8条(質権設定)
火災保険の保険金請求権に売主のために質権を設定することを規定しています。万が一、火災などで商品が損傷した場合、保険金は売主に優先的に支払われる仕組みです。債権保全の二重の保護策として機能します。
第9条(処分等禁止・所有権明示)
買主は商品を転売したり担保に供したりすることが禁止されます。また、商品に売主所有であることを示すプレートを取り付ける義務があります。これにより第三者に対しても所有権留保の事実を明示できます。
第10条(所有権移転)
代金完済時に所有権が買主に移転することを明記しています。この条項により、全ての支払いが終了した時点で買主は完全な所有者となり、自由に商品を処分できるようになります。
第11条(期限の利益喪失)
買主が支払いを怠ったり経営状態が悪化したりした場合に、残金の一括支払義務が生じる条件を列挙しています。特に注意すべきは、1回でも支払いを怠ると残金全額の即時支払義務が生じる点です。また、遅延損害金の利率も定められています。
第12条(解除)
売主が契約を解除できる条件を規定しています。前条の期限の利益喪失事由が発生した場合、売主は催告なしに契約を解除できます。迅速な債権回収のための条項です。
第13条(商品返還)
契約解除時の商品返還義務について定めています。買主は商品使用権を失い、売主の指示に従って返還しなくてはなりません。スムーズな回収のために買主の協力義務が明記されています。
第14条(清算手続)
商品返還後の精算方法について規定しています。返還時の商品評価額と当初の売買代金との差額を計算し、既払金との差額を精算する仕組みです。返還商品の価値減少分は買主負担となる点に注意が必要です。
第15条(連帯保証)
連帯保証人(丙)の責任範囲を明確にしています。丙は買主(乙)の全ての債務について連帯して責任を負います。これには清算による不足金の支払義務も含まれるため、保証人にとっては重い責任となります。
第16条(合意管轄)
紛争発生時の管轄裁判所を特定しています。「●●地方裁判所又は●●簡易裁判所」という記載を実際の地名に置き換えて使用します。通常は売主の所在地を管轄する裁判所が指定されることが多いです。
第17条(協議事項)
契約に定めのない事項については当事者間で協議して決定することを規定しています。予見できない事態に柔軟に対応するための条項です。実務では「本契約に定めのない事項または疑義が生じた事項については、民法その他の法令および商習慣に従い、甲乙誠意をもって協議解決する」という表現も用いられます。