【1】書式概要
企業間の経営権移転や事業承継において、子会社の株式譲渡は重要な局面を迎えます。このテンプレートは、株式譲渡に関する当事者間の基本的合意事項を明確化し、本契約へのスムーズな移行を実現するための実用的な雛形です。
テンプレートの特徴
このテンプレートは2020年の改正民法に対応しており、株式譲渡の売り手・買い手双方の権利義務関係を明確にしています。特に中小企業のM&Aや事業継承時に発生しがちな紛争を未然に防ぐための条項構成となっており、譲渡価格の設定基準、保証内容、デューデリジェンスの実施方法、秘密保持義務など、実務上重要な要素をバランスよく盛り込んでいます。
主要な条項と実務ポイント
基本合意と本契約(第1条)
売り手と買い手の基本的な意思合意を明文化し、本契約締結までの期間設定と必要な社内手続きの進行を定めています。明確な期限設定により、交渉の長期化を防止する効果があります。
対価の設定(第2条)
譲渡対象株式の価格について、暫定価格を設定しつつも、デューデリジェンスの結果に基づく調整メカニズムを組み込んでいます。これにより、譲渡後のトラブルを未然に防ぐ効果があります。
保証条項(第3条)
売り手側の重要な保証事項として、対象株式の所有権、担保権等の不存在、情報開示の正確性、税務処理の適法性などを規定しています。M&A取引における典型的なリスクをカバーする内容となっています。
デューデリジェンス(第4条)
買い手による対象会社の調査権限と売り手の協力義務を明確化しています。実務上、この調査過程が取引の成否を左右することが多いため、詳細な調査権限を保障する内容となっています。
引継協力(第6条)
株式譲渡後の事業運営に不可欠な顧客・取引先・従業員の承継について、売り手の協力義務を定めています。中小企業M&Aにおいては、この点が特に重要となります。
行為制限(第9条)
最終契約締結までの間、対象会社の経営に重大な影響を及ぼす行為を制限する条項です。具体的な金額基準を設けることで、日常業務に支障をきたさない工夫がなされています。
活用シーン
- 子会社や関連会社の売却を検討している企業
- 事業承継の一環として株式譲渡を計画している中小企業オーナー
- M&Aを通じて事業拡大を図る買収側企業
- 株式譲渡に関する基本合意から最終契約までをサポートする法務・財務アドバイザー
本テンプレートは基本合意書の形式ですが、最終的な株式譲渡契約の前提となる重要事項を網羅しており、スムーズな交渉進行と確実な取引完結に貢献します。各企業の状況に応じてカスタマイズすることで、様々な規模・業種の株式譲渡取引に対応可能です。
〔条文タイトル〕
第1条(基本合意及び本契約)
第2条(対価)
第3条(保証)
第4条(調査・調査協力)
第5条(費用負担)
第6条(引継協力)
第7条(後発事象)
第8条(最終契約書の締結)
第9条(最終契約までの行為制限)
第10条(秘密保持)
第11条(有効期間)
第12条(協議解決)
【2】逐条解説
第1条(基本合意及び本契約)
この条項では、株式譲渡に関する基本的な合意事項と今後のスケジュールが規定されています。当事者間で本契約締結までの期限を設定することで、交渉の長期化を防ぎ、各社内での迅速な手続き進行を促します。実務上は、この期限設定が曖昧だと交渉が停滞するリスクがあるため、明確な期日設定が重要です。また、譲渡完了までの具体的日程を別途協議することで、柔軟性も確保しています。
第2条(対価)
株式譲渡価格について、暫定的な金額を示しつつも、デューディリジェンスの結果を踏まえた調整メカニズムを導入しています。M&A実務では、初期段階での適正価格算定は困難なため、このような二段階アプローチが一般的です。ただし、価格調整の方法や基準について詳細を定めていないため、最終契約では具体的な調整方法を明記すべきでしょう。
第3条(保証)
売主側が買主に対して行う基本的な表明保証事項を列挙しています。特に株式の適法な所有権、担保権等の不存在、開示情報の正確性、税務処理の適法性など、M&A取引で重要な保証事項が網羅されています。これらは買主側のリスク低減に不可欠な条項であり、デューディリジェンスの結果によっては、最終契約でさらに詳細な保証条項に発展させることが一般的です。
第4条(調査・調査協力)
買主によるデューディリジェンスの実施権と売主側の協力義務を明確化しています。実務上、この調査プロセスが取引の成否を左右することが多いため、調査範囲や方法について明記しています。特に会計・税務関連の調査は重要視されており、売主側には「ありのままに開示・通知・回答する」という高度な協力義務が課されています。
第5条(費用負担)
基本合意書に関連する費用は各自負担とする原則を定めています。特にデューディリジェンス費用は買主負担と明記されており、実務慣行に沿った内容です。最終契約に至らなかった場合の費用負担トラブルを防止する意味でも重要な条項といえます。
第6条(引継協力)
株式譲渡後の事業継続性確保のため、売主側の引継協力義務を規定しています。特に顧客・取引先・従業員の承継は事業価値維持に直結するため、売主の協力義務違反に対する損害賠償請求権も明記されています。中小企業M&Aでは、この人的関係の承継がしばしば課題となるため、実務上重要な条項です。
第7条(後発事象)
基本合意後から本契約締結までの間に、取引判断に重大な影響を及ぼす事由が発生した場合の対応を規定しています。いわゆるMAE(Material Adverse Effect)条項に相当し、経営環境の急変や不可抗力による影響から当事者を保護する機能があります。
第8条(最終契約書の締結)
基本合意から最終契約への移行プロセスを明記しています。調査と協議を経て合意した詳細条件を最終契約に反映させる流れを示しており、M&A取引の基本的なステップを確認する条項です。
第9条(最終契約までの行為制限)
対象会社の事業価値を維持するため、最終契約締結までの間、重要な経営判断や資産処分等を制限しています。具体的な金額基準(この場合は一定金額を超える設備投資等)を設けることで、日常的な業務執行に支障をきたさない配慮がなされています。
第10条(秘密保持)
M&A交渉の機密性確保のための条項です。例外として、買主側の金融機関やアドバイザーへの開示は許容されており、実務に即した柔軟性が確保されています。株式譲渡交渉の漏洩は市場や従業員、取引先に混乱を招く恐れがあるため、重要な保護条項です。
第11条(有効期間)
基本合意の有効期間を明示しつつ、交渉継続中の自動延長条項も設けています。交渉の長期化を防止しつつも、建設的な交渉が継続している場合には柔軟に対応できる実務的な配慮がなされています。
第12条(協議解決)
合意書に定めのない事項や解釈に疑義が生じた場合の解決方法を規定しています。裁判所や仲裁機関による解決を前提とせず、当事者間の協議による解決を優先する姿勢を示しており、取引当事者間の信頼関係構築にも寄与する条項です。
この基本合意書は、子会社株式譲渡という複雑な取引の第一段階として、当事者の基本的合意事項を明確化し、最終契約へのスムーズな移行を図るものです。実務では、この基本合意を踏まえたデューディリジェンスの結果に基づき、より詳細な最終契約が締結されることになります。