【1】書式概要
この契約書は、設計図面やデザイン原画のトレース作業を外部の専門家に依頼する際に使用する業務委託契約の雛型です。建築設計事務所や機械設計会社、電気設計事務所などが、図面の清書やCADデータ化作業を個人事業主やフリーランスの技術者に外注する場面で威力を発揮します。
近年、働き方改革の影響で多くの企業が専門業務の外部委託を積極的に活用しており、特に図面作成業務は技術力のある外部パートナーとの連携が不可欠となっています。この契約書テンプレートは、そうした現代のビジネス環境に対応した実用的な内容となっており、改正民法にも完全対応しています。
実際の使用場面としては、建築設計事務所が手描きの設計図面をCADデータ化する際や、機械メーカーが既存図面の修正・更新作業を外注する際、さらには電気設計会社が配線図の清書作業を専門家に依頼する際などが挙げられます。Word形式で提供されるため、会社名や条件を簡単に編集でき、すぐに実務で活用できる点が大きな特徴です。
納品物の形式やサイズ別の単価設定、検収プロセス、知的財産権の取り扱いなど、トレース業務特有の課題を網羅した内容となっており、契約トラブルを未然に防ぐ仕組みが整備されています。
【2】条文タイトル
第1条(目的) 第2条(委託業務の内容) 第3条(委託期間) 第4条(納品物) 第5条(納期) 第6条(委託料及び支払方法) 第7条(費用負担) 第8条(納品及び検収) 第9条(所有権及び危険負担) 第10条(知的財産権) 第11条(秘密保持) 第12条(個人情報の保護) 第13条(再委託の禁止) 第14条(業務責任者) 第15条(進捗報告) 第16条(契約解除) 第17条(損害賠償) 第18条(反社会的勢力の排除) 第19条(残存条項) 第20条(準拠法及び管轄裁判所) 第21条(協議事項)
【3】逐条解説
第1条(目的)
この条文は契約全体の基本的な枠組みを定めています。委託者と受託者の立場を明確にし、トレース業務という特定の作業内容に関する合意であることを確認する重要な規定です。実際の現場では、この条文があることで後々の解釈の違いを防ぐことができます。
第2条(委託業務の内容)
トレース業務の具体的な範囲を定めた核心的な条文です。設計図面やデザイン原画のトレース作業、図面の清書、CADデータ化といった主要業務を列挙し、さらに関連する付随業務も含めています。例えば、建築図面のトレースを依頼した場合、単純な線の描き直しだけでなく、寸法の整理や図面の体裁調整なども含まれることになります。仕様書による詳細規定や業務内容の変更可能性も盛り込まれており、実務での柔軟な対応が可能です。
第3条(委託期間)
契約の有効期間を1年間とし、自動更新条項を設けています。トレース業務は継続的な取引になることが多いため、毎回新しい契約を結ぶ手間を省く実用的な仕組みです。更新を望まない場合は1か月前までに通知すれば済むため、双方にとって使いやすい設計となっています。
第4条(納品物)
完成した図面データの形式や種類を具体的に定めています。清書された図面データ、PDF形式、編集可能なCADデータなど、現代のデジタル環境に対応した多様な形式での納品を想定しています。例えば、建築設計事務所がクライアントへの提案用にPDFが必要で、同時に今後の修正作業のためにCADデータも必要という場合に対応できます。
第5条(納期)
納期の設定と遅延時の対応手順を定めています。受託者が納期遅延を予見した場合の早期連絡義務や、不可抗力による納期変更の協議規定など、実務でよく発生する状況への対処方法が明確になっています。例えば、大型台風で作業環境が確保できない場合などは、この条文に基づいて納期調整が可能です。
第6条(委託料及び支払方法)
図面サイズ別の単価設定と支払いスケジュールを定めています。A3、A2、A1といった一般的な図面サイズごとの料金体系により、作業量に応じた公平な報酬計算が可能です。複雑な図面の場合の単価調整規定もあり、例えば配管図のような複雑な図面と単純な平面図では異なる料金設定ができます。月末締めの翌月30日払いという一般的な商慣習に沿った支払いサイクルも採用しています。
第7条(費用負担)
作業に必要な機材やソフトウェアの費用負担を明確にしています。基本的に受託者負担としつつ、特別な機材が必要な場合の協議規定も設けており、双方の負担を公平に調整できます。例えば、特殊なCADソフトウェアが必要な場合は、委託者がライセンス費用を負担するといった取り決めが可能です。
第8条(納品及び検収)
納品物の検査プロセスと修正手順を詳細に定めています。10営業日以内の検査期間設定により、検収の長期化を防ぎ、受託者の資金繰りにも配慮しています。不適合時の修正要求手順も明確で、例えば寸法の記入漏れや線の太さの不統一などがあった場合の対処方法が分かりやすく示されています。
第9条(所有権及び危険負担)
納品物の所有権移転時期と危険負担を定めています。検収完了時点での所有権移転により、それまでのデータ消失リスクは受託者が負担し、検収後は委託者が負担するという合理的な区分けがなされています。
第10条(知的財産権)
トレース業務で作成されたデータの知的財産権が委託者に帰属することを明確にしています。著作者人格権の不行使や第三者権利侵害の保証など、実務上重要な権利関係の整理が行われています。例えば、受託者がトレースした図面を後で自分の作品として使用することはできません。
第11条(秘密保持)
図面データや技術情報の機密保持を厳格に定めています。契約終了後5年間の保持期間設定により、長期的な情報保護を実現しています。例えば、新製品の設計図面をトレースした場合、その情報を他社に漏らすことは契約終了後も禁止されます。
第12条(個人情報の保護)
個人情報保護法に準拠した個人情報取り扱いルールを定めています。建築図面に含まれる施主情報などの個人データを適切に管理し、業務終了時の返却・廃棄も義務付けています。
第13条(再委託の禁止)
受託者による第三者への再委託を原則禁止とし、やむを得ない場合の承認手続きを定めています。委託者が特定の技術者への依頼を前提としている場合の品質確保や機密保持を実現するための重要な規定です。
第14条(業務責任者)
双方の連絡窓口となる責任者を定めています。大きな組織では担当者が変わることもあるため、変更時の通知義務も設けて円滑な業務継続を図っています。
第15条(進捗報告)
委託者からの求めに応じた進捗報告義務を定めています。大規模な図面作成プロジェクトでは進捗管理が重要となるため、必要に応じて状況確認ができる仕組みです。
第16条(契約解除)
契約違反時の解除手続きと即時解除事由を定めています。一般的な催告解除と、重大な事由による無催告解除を区別し、破産や差押えなどの信用不安時の対応も明確にしています。
第17条(損害賠償)
契約違反による損害賠償の範囲と上限を定めています。委託料総額を上限とする制限規定により、過度な賠償責任を防ぎつつ、故意・重過失時の例外も設けてバランスの取れた内容となっています。
第18条(反社会的勢力の排除)
現代の企業間取引で必須となった反社会的勢力排除条項です。詳細な該当事由を列挙し、違反時の即時解除を可能とすることで、コンプライアンス体制の強化を図っています。
第19条(残存条項)
契約終了後も効力を維持すべき条項を明示しています。知的財産権や秘密保持義務など、契約終了後も重要な条項が継続することを明確にしています。
第20条(準拠法及び管轄裁判所)
日本法の適用と管轄裁判所を定めています。紛争時の解決手続きを明確にし、予測可能性を高めています。
第21条(協議事項)
契約書に記載のない事項や解釈の疑義について、誠実協議による解決を定めています。硬直的な契約運用を避け、柔軟な問題解決を可能とする重要な規定です。
|