【1】書式概要
当契約書雛形は、ソフトウェア開発を請け負う側(乙・受注者)の利益を考慮して設計された契約書テンプレートです。ソフトウェア開発会社やフリーランスエンジニアが自社・自身を守りながら安全に取引を進めるための基盤となります。
本雛形は改正民法に対応しており、特に著作権の取り扱いにおいて受注者に有利な条件が盛り込まれています。第10条では納入品に係る著作権が検収日をもって発注者に移転しないことが明記されており、著作者人格権の不行使も定められているため、受注者の知的財産権を保護することができます。
契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)においても、検収日から1年以内という合理的な期間制限を設け、また修補に過分の費用を要する場合の例外規定も含まれているため、受注者側の過度な負担を防止します。
契約解除条項や損害賠償条項も受注者側に配慮した内容となっており、賠償請求には期間制限を設けることで長期間のリスク保持を回避できる設計です。管轄裁判所についても「乙の本店所在地を管轄する裁判所」と規定されており、受注者側の利便性を確保しています。
ソフトウェア開発の特性を理解した専門的な条項構成と、受注者側の立場に立った権利保護の仕組みを備えた本契約書雛形は、公平かつ持続可能なビジネス関係の構築に貢献します。開発者がクライアントとの契約交渉を行う際の出発点として、または自社の契約書の見直しにおいて参考資料として活用いただけます。
〔条文タイトル〕
第1条(本契約の目的)
第2条(仕様書等の変更)
第3条(再委託)
第4条(知的財産権等)
第5条(業務遂行への協力)
第6条(業務従事者)
第7条(報告)
第8条(納入)
第9条(所有権の移転及び危険負担)
第10条(知的財産権)
第11条(契約金額の支払)
第12条(契約不適合責任)
第13条(契約の解除)
第14条(損害賠償)
第15条(遅延損害金)
第16条(守秘義務)
第17条(反社会的勢力の排除)
第18条(権利・義務の譲渡制限)
第19条(管轄裁判所)
第20条(協議)
第21条(準拠法)
【2】逐条解説
第1条(本契約の目的)
契約の基本的な枠組みを定める条項です。甲(発注者)が乙(受注者)にソフトウェア開発を委託する基本関係を明確にし、仕様書で詳細を規定することを明記しています。この条項により契約の範囲が明確になります。
第2条(仕様書等の変更)
発注者側の都合による仕様変更を認めつつも、その変更に伴う契約金額の変更については双方協議のうえ決定するとしています。書面による確認を義務付けることで、口頭での曖昧な変更指示を防止する効果があります。
第3条(再委託)
受注者が業務の全部または一部を第三者に再委託する際の手続きを定めています。事前の書面による承諾を必要とし、再委託先にも本契約と同等の義務を負わせることで、品質やセキュリティの確保を図っています。
第4条(知的財産権等)
知的財産権の取り扱いに関する基本方針を定めています。契約締結によって発注者の知的財産権が受注者に自動的に許諾されないことを明確にし、第三者の知的財産権侵害がないよう受注者に保証を求めています。
第5条(業務遂行への協力)
開発業務を円滑に進めるための協力関係について規定しています。発注者からの資料提供や施設利用について定め、受注者の責任範囲を明確にしています。受注者が必要な協力を要請できる権利も確保されています。
第6条(業務従事者)
業務の責任者選任と、受注者の従業員に関する雇用主としての責任を明確にしています。労務管理や安全衛生管理は受注者が行うことを明記し、偽装請負と誤解されるリスクを回避しています。
第7条(報告)
開発の進捗状況報告に関する条項です。定期的な報告義務を設け、問題発生時の協議や解決方法について取り決めています。発注者はいつでも報告を求めることができるとし、プロジェクト管理の透明性を確保しています。
第8条(納入)
成果物の納入と検査に関する手続きを定めています。検査期間を明確にし、不合格の場合の再提出についても規定しています。この条項により納品完了の基準が明確になります。
第9条(所有権の移転及び危険負担)
納入品の所有権移転時期と、それまでの危険負担について規定しています。検収完了時に所有権が移転し、それまでの毀損・滅失リスクは原則として受注者が負うことを明記しています。
第10条(知的財産権)
受注者に有利な特徴が顕著な条項です。著作権が検収後も受注者に残ることを明記し、著作者人格権の不行使を約束することで実務的な利用を確保しています。発明・考案に関する権利帰属は協議事項としています。
第11条(契約金額の支払)
対価の支払いに関する条件を定めています。検収後の請求手続きと支払期限を明確にし、受注者のキャッシュフローを守る内容となっています。
第12条(契約不適合責任)
いわゆる瑕疵担保責任(改正民法では契約不適合責任)について規定しています。責任期間を1年と明確にし、修補が過分の費用を要する場合は例外とするなど、受注者側の過度な負担を軽減する条件が含まれています。
第13条(契約の解除)
契約解除の条件を詳細に規定しています。契約違反や支払不能等の事由を列挙し、解除前に催告期間を設けることで、突然の契約解除リスクから受注者を保護しています。
第14条(損害賠償)
賠償責任の範囲と期間制限を定めています。検収日から一定期間経過後は請求できないとする制限を設け、長期間にわたる賠償リスクから受注者を保護しています。
第15条(遅延損害金)
支払遅延に対する遅延損害金の利率を年3%と定めています。法定利率よりも低い設定となっていますが、長期的な取引関係を考慮した設定と言えます。
第16条(守秘義務)
秘密情報の取り扱いに関する義務を規定しています。守秘義務の例外事由も明確にし、役職員や第三者への義務付けも含まれています。契約終了後も効力が続く点が特徴です。
第17条(反社会的勢力の排除)
反社会的勢力との関係排除を明記し、違反時の無催告解除権を規定しています。昨今の契約書では標準的な条項ですが、コンプライアンス上重要な内容です。
第18条(権利・義務の譲渡制限)
契約上の権利義務を第三者に譲渡することを制限しています。事前の書面による承諾を必要とすることで、想定外の相手との取引リスクを回避しています。
第19条(管轄裁判所)
紛争発生時の管轄裁判所を受注者の本店所在地と定めており、受注者に有利な条件となっています。通常は発注者の所在地が指定されることが多い中、この条項は受注者保護の姿勢が明確です。
第20条(協議)
契約に定めのない事項についての協議条項です。予見できない状況に柔軟に対応するための条項として機能します。
第21条(準拠法)
契約の準拠法を日本法と定めています。国際取引においても法的安定性を確保するための条項です。