【1】書式概要
この示談書は、経営コンサルティング会社が提供した不適切な会計処理のアドバイスによって、依頼企業が税務当局から追徴課税を受けた際の損害賠償について取り決める契約書です。
近年、経営コンサルティング業界の急成長に伴い、専門知識の不足や経験不足により、税法に違反するアドバイスを行うコンサルタントが増加しています。その結果、企業が意図せず違法な会計処理を行い、後日税務調査で発覚して多額の追徴課税を受けるケースが後を絶ちません。
このような状況が発生した場合、被害を受けた企業としては、コンサルティング会社に対して損害賠償を求める必要があります。しかし、損害の範囲や責任の所在を明確にし、円満な解決を図るためには、適切な示談書の作成が不可欠です。
本書式は、追徴課税の本税・加算税・延滞税はもちろん、税務調査対応費用、弁護士費用、慰謝料まで幅広くカバーしており、実際の紛争解決現場で培われたノウハウが盛り込まれています。Word形式で提供されるため、個別の事案に応じて金額や条件を簡単に編集・修正することができ、すぐに実用的な契約書として活用いただけます。
税務トラブルに巻き込まれた企業経営者の方、コンサルティング会社との紛争解決を迫られている法務担当者の方にとって、時間とコストを大幅に削減できる実践的なツールとなるでしょう。
【2】条文タイトル
第1条(目的) 第2条(当事者) 第3条(経緯及び事実関係) 第4条(乙の責任の認否) 第5条(損害賠償額) 第6条(支払方法) 第7条(分割払いの特約) 第8条(過去の報酬の扱い) 第9条(権利義務の不存在) 第10条(権利の放棄) 第11条(再発防止策) 第12条(表明及び保証) 第13条(守秘義務) 第14条(風評被害の防止) 第15条(契約上の地位の譲渡禁止) 第16条(反社会的勢力の排除) 第17条(合意管轄) 第18条(準拠法) 第19条(協議事項) 第20条(完全合意)
【3】逐条解説
第1条(目的)
この条文は、示談書全体の趣旨を明確にする重要な規定です。コンサルティング業務で提供された不適切なアドバイスが原因で追徴課税が発生した場合の損害賠償について定めることを宣言しています。例えば、売上の前倒し計上や費用の繰延べなど、税法に違反する会計処理をアドバイスされたケースが該当します。
第2条(当事者)
契約の当事者を特定する基本的な条文です。被害を受けた企業を「甲」、コンサルティング会社を「乙」として、それぞれの正式な会社名、代表者名、住所、法人番号を記載します。後日の紛争を避けるため、法人登記簿謄本と照合して正確な情報を記載することが重要です。
第3条(経緯及び事実関係)
紛争の発端となった事実関係を時系列で整理する条文です。コンサルティング契約の締結から、不適切なアドバイス、税務調査の実施、追徴課税処分までの流れを詳細に記載します。税務調査で指摘された具体的な会計処理の問題点も明記し、後日の争いを防ぎます。
第4条(乙の責任の認否)
コンサルティング会社側の責任を明確に認定させる条文です。単に追徴課税が発生したという事実だけでなく、その原因が自社の不適切なアドバイスにあることを明確に認めさせることで、後日の責任逃れを防ぎます。この認定がなければ、示談の意味がありません。
第5条(損害賠償額)
損害賠償の具体的な内容と金額を定める核心的な条文です。追徴課税の本税、加算税、延滞税はもちろん、税務調査対応で発生した税理士報酬、示談交渉の弁護士費用、さらには精神的苦痛に対する慰謝料まで幅広くカバーしています。実際の損害額を正確に算定することが重要です。
第6条(支払方法)
損害賠償金の支払方法と期限を定める条文です。一括払いを原則とし、30日以内という明確な期限を設定しています。振込手数料の負担者や遅延損害金の利率も明記し、確実な回収を図ります。年14.6%という利率は、商事法定利率を踏まえた実務上の標準的な設定です。
第7条(分割払いの特約)
相手方の資金繰りに配慮した分割払いオプションを定める条文です。ただし、甲の承諾を前提とし、一度でも支払いを怠れば期限の利益を失う厳格な条件を設定しています。毎月末日払いという具体的なスケジュールにより、管理しやすい仕組みとなっています。
第8条(過去の報酬の扱い)
既に支払済みのコンサルティング報酬のうち、不適切なアドバイス部分に対応する金額の返還を求める条文です。これにより、被害企業は二重の損失を回避できます。返還請求権を損害賠償金に含めることで、手続きの簡素化も図っています。
第9条(権利義務の不存在)
示談書に定める事項以外に、当事者間で債権債務関係がないことを相互に確認する条文です。これにより、将来の予期しない請求を防ぎ、紛争の完全な解決を図ります。清算条項とも呼ばれる重要な規定です。
第10条(権利の放棄)
被害企業が有する損害賠償請求権等の放棄を定める条文です。ただし、損害賠償金の完全な支払いを条件としており、刑事告訴権も含む包括的な権利放棄となっています。これにより、コンサルティング会社側にとっても安心できる解決が実現されます。
第11条(再発防止策)
同様の問題の再発防止を目的とした条文です。社内規程の整備、コンプライアンス研修の実施という具体的な措置を義務付け、それぞれに明確な期限を設定しています。これにより、業界全体のレベル向上にも寄与することが期待されます。
第12条(表明及び保証)
当事者双方が示談書締結に必要な権限を有し、記載内容が真実であることを相互に保証する条文です。特に、コンサルティング会社側の支払能力についても保証させることで、実効性のある示談を確保しています。
第13条(守秘義務)
示談内容の第三者への漏洩を防ぐ条文です。ただし、顧問弁護士や税理士等の専門家、グループ会社への開示は認めており、実務上の必要性と秘密保持のバランスを取っています。5年間という明確な存続期間も設定されています。
第14条(風評被害の防止)
相手方の名誉や信用を毀損する行為を禁止する条文です。SNSでの誹謗中傷や業界内での悪評流布等を防ぐことで、建設的な問題解決を促進します。示談後の関係修復にも配慮した規定です。
第15条(契約上の地位の譲渡禁止)
示談書上の地位や権利義務の第三者への譲渡を禁止する条文です。これにより、予期しない第三者の関与を防ぎ、当事者間での確実な履行を担保します。債権譲渡等による複雑化を避ける効果があります。
第16条(反社会的勢力の排除)
暴力団等の反社会的勢力との関係を排除する現代の契約書には必須の条文です。該当した場合の契約解除権や損害賠償責任も明記し、コンプライアンス体制の強化を図っています。
第17条(合意管轄)
紛争が生じた場合の裁判所を事前に定める条文です。専属的合意管轄により、予測可能性を高め、訴訟コストの削減も図ります。通常は被害企業の本店所在地を管轄する地方裁判所を指定します。
第18条(準拠法)
示談書の解釈に適用される法律を日本法と明記する条文です。国際的な要素がある場合でも、解釈の統一性を確保し、予測可能性を高める効果があります。
第19条(協議事項)
示談書に定めのない事項や解釈に疑義が生じた場合の解決方法を定める条文です。まずは当事者間での誠実な協議による解決を図り、訴訟の回避を目指します。
第20条(完全合意)
この示談書が当事者間の完全かつ最終的な合意であることを確認する条文です。過去の口約束や暫定的な合意に優先することを明記し、契約関係の明確化を図ります。
【4】活用アドバイス
この示談書を効果的に活用するためには、まず事実関係の正確な把握が重要です。税務調査の結果通知書や追徴課税処分書等の公的な書類を手元に用意し、第3条の事実関係欄に正確な日付と金額を記載してください。
損害賠償額の算定では、追徴課税以外の関連費用も漏れなく計上することがポイントです。税務調査対応で税理士に支払った報酬、示談交渉で弁護士に相談した費用、さらには経営者の精神的苦痛に対する慰謝料も正当な損害として請求できます。
相手方との交渉では、まず責任の認定(第4条)を確実に取り付けることが重要です。この部分があいまいだと、後日責任逃れをされる可能性があります。証拠となる契約書やメール等を整理し、不適切なアドバイスの事実を客観的に立証できるよう準備してください。
支払条件については、相手方の資力を考慮して一括払いか分割払いかを判断します。分割払いの場合でも、担保の提供や連帯保証人の設定等、確実な回収策を検討することをお勧めします。
【5】この文書を利用するメリット
この示談書を利用する最大のメリットは、複雑な税務トラブルを迅速かつ確実に解決できることです。追徴課税問題は放置すると利息が膨らみ、企業の資金繰りに深刻な影響を与えます。この書式を使用することで、問題発覚から解決まで大幅な時間短縮が実現できます。
包括的な損害項目の設定により、見落としがちな関連費用まで確実に回収できます。多くの企業は追徴課税の本税のみに注目しがちですが、実際には税務調査対応費用や弁護士費用等の間接損害も相当な金額になります。この書式により、真の被害回復が可能になります。
再発防止策の義務付けにより、同じコンサルティング会社から再び被害を受けるリスクを大幅に軽減できます。社内規程の整備やコンプライアンス研修の実施により、業界全体のサービス品質向上にも貢献します。
専門家への依頼コストを大幅に削減できることも重要なメリットです。一から契約書を作成すると相当な時間と費用がかかりますが、この書式により即座に交渉を開始できます。
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