【1】書式概要
この示談書は、飲食店での予約無断キャンセル(いわゆる「ノーショー」)が発生した際に、店舗側と予約者との間で損害賠償や解決方法について合意するための公式な文書です。改正民法に対応しており、飲食店経営者が無断キャンセルによる損失を適切に回収するために必要な内容が網羅されています。
昨今、飲食業界では予約無断キャンセル問題が深刻化しており、特に高級店やコース料理を提供する店舗では、食材の仕入れや人員配置を事前に行うため、無断キャンセルによる経済的打撃が大きくなっています。
この示談書は、そうした状況下で店舗の権利を守りながら、予約者との関係も考慮した解決策を提示するものです。実際の使用場面としては、無断キャンセルが発生した後に店舗側から予約者に連絡を取り、話し合いの末に示談が成立する際に用いることができます。
〔条文タイトル〕
第1条(目的)
第2条(事実の確認)
第3条(損害の発生)
第4条(損害賠償)
第5条(支払方法)
第6条(支払遅延の場合の措置)
第7条(権利放棄)
第8条(守秘義務)
第9条(違約金)
第10条(合意管轄)
【2】逐条解説
第1条(目的)
この条項では示談書の基本的な目的を明確にしています。単に損害賠償を求めるだけでなく、「将来にわたって円満な関係を構築する」という文言が入っているのがポイントです。これは、できれば当該予約者を今後も顧客として迎えたいという飲食店側の思いを反映させたものといえるでしょう。例えば、常連客が一度だけミスをした場合などには特に重要な視点となります。
第2条(事実の確認)
ここでは何があったのかを明確に記録します。日付、時間、人数などの具体的事実を明記することで、後々のトラブルを防止します。「無断でキャンセルしたことを認める」という文言が入っていることで、予約者側がこの事実を認めたことを証明できる点が重要です。たとえば「連絡はした」と後から主張されるようなケースを防げます。
第3条(損害の発生)
具体的な損害の内訳を記載する部分です。食材費、人件費、機会損失(他のお客様に提供できなかったことによる損失)などを細かく計上できます。特に機会損失は飲食店にとって大きな問題で、例えば土曜の夜のような繁忙時間帯に予約を入れていた場合、その席を他のお客様に提供できなかった損失は大きいものです。内訳を具体的に示すことで、予約者にもキャンセルの影響の大きさを理解してもらいやすくなります。
第4条(損害賠償)
実際に支払う賠償額を明記します。第3条で示した損害の合計額と同額とする場合もありますが、話し合いの結果、一部減額することもあるでしょう。例えば急病などやむを得ない事情があった場合は、店舗側が配慮して金額を調整することもあります。この金額は両者の合意に基づくものであることが重要です。
第5条(支払方法)
支払期限と振込先を明確にします。現金手渡しではなく銀行振込を指定することで、支払いの証拠を残せるようにしています。振込手数料を予約者負担とすることも明記されており、細部まで配慮された内容になっています。支払期限は、一般的には示談成立から1~2週間程度の猶予を持たせることが多いようです。
第6条(支払遅延の場合の措置)
支払が遅れた場合の対応について規定しています。年14.6%という遅延損害金の利率は、現在の利息制限法に基づく上限を設定しており、法的に有効な範囲内での請求となっています。これにより、支払いを先延ばしにするインセンティブを減らす効果があります。例えば、10万円の賠償金であれば、1ヶ月遅延するごとに約1,200円の遅延損害金が発生することになります。
第7条(権利放棄)
示談金が支払われた時点で、店舗側はそれ以上の請求をしないことを約束する条項です。これにより予約者も安心して示談に応じることができます。例えば、後から「やっぱりもっと損害があった」などと追加請求されるリスクがなくなります。この条項があることで、紛争の最終的な解決という示談本来の意義が達成されます。
第8条(守秘義務)
示談の内容を第三者に漏らさないという約束です。店舗側としては、「示談金を払えば無断キャンセルしても大丈夫」という認識が広まることを防ぎたいという思いがあります。また予約者側も、無断キャンセルをしたという事実が知られることを避けたい場合が多いでしょう。例えば、SNSなどで「〇〇店で無断キャンセルしたけど示談金はいくらだった」などと投稿することは、この条項に違反することになります。
第9条(違約金)
示談の内容に違反した場合の制裁を定めています。例えば、守秘義務に違反して示談内容をSNSで公開した場合などに適用されます。この金額は示談金と同額か、それ以上に設定されることが多く、約束を守るインセンティブとなります。飲食店側が「もう来店しないでください」と言っておきながら、後から予約者に連絡して「また利用してください」と勧誘するようなケースも違反となり得ます。
第10条(合意管轄)
万が一、示談後にトラブルが生じた場合の裁判所を指定する条項です。通常は店舗所在地を管轄する裁判所が指定されますが、これは店舗側の便宜を図るものです。例えば、東京の飲食店の場合は東京地方裁判所、大阪の飲食店なら大阪地方裁判所というように、店舗の地元の裁判所で解決できるようにしておくことで、遠方に出向く必要がなくなります。
この示談書は、問題が起きた後の解決策として有効ですが、理想的には予約時に「キャンセルポリシー」を明確に伝え、無断キャンセル自体を予防することが望ましいでしょう。多くの高級店では今日、予約時にクレジットカード情報の預かりや前金制を導入することで、こうした問題の予防に努めています。