【1】書式概要
この「育成者権の譲渡契約書」は、植物の新品種に関する知的財産権である育成者権を安全に譲渡するための法的文書です。
この契約書は、権利保有者(甲)から譲受人(乙)への育成者権の移転に関する詳細な条件を定めており、譲渡価格の支払い条件、登録移転手続きの協力義務、登録料の精算方法などを明確に規定しています。
特に重要な点として、甲による育成者権の有効性に関する表明保証条項が含まれ、万が一権利の有効性に問題が生じた場合の対応や解除条件も詳細に定められています。
農業ビジネス、種苗会社、植物育種者、研究機関など、植物新品種の権利取引を行う際に必要となる法的に堅牢な契約書として、権利保有者と譲受人双方の利益を保護するために作成されています。
改正民法に対応した最新の法的要件を満たしており、育成者権取引の安全性と透明性を確保する上で不可欠な法的文書です。
〔条文タイトル〕
第1条(育成者権の譲渡)
第2条(譲渡代金)
第3条(移転登録への協力義務等)
第4条(登録料の精算)
第5条(表明保証)
第6条(訴訟協力)
第7条(解除)
第8条(合意管轄)
【2】逐条解説
第1条(育成者権の譲渡)
本条項は契約の核心部分として、甲(権利保有者)が乙(譲受人)に対して特定の登録品種の育成者権を譲渡することを明記しています。「本登録品種」と「本育成者権」の定義を明確にし、譲渡の対象となる品種を品種登録番号と品種名で特定することで、譲渡対象に関する誤解や紛争を防止します。この明確な特定は、種苗法に基づく育成者権の譲渡において非常に重要です。
第2条(譲渡代金)
譲渡の対価としての金額と支払方法を規定しています。第1項では譲渡代金額を明記し、第2項では具体的な支払方法として、甲が指定する銀行口座への振込と支払期限(契約締結後2週間以内)を定めています。これにより、代金支払いに関する不明確さを排除し、取引の確実性を高めています。
第3条(移転登録への協力義務等)
本条は育成者権の移転登録に必要な手続きについて規定しています。甲は乙からの支払いを確認した後、速やかに移転登録に必要な書類を乙に交付する義務を負います。一方、移転登録に必要な費用は乙の負担とすることを明記し、責任分担を明確にしています。この条項により、代金支払後の権利移転手続きがスムーズに進行することが期待されます。
第4条(登録料の精算)
育成者権の維持に必要な登録料の負担について時期に応じた精算方法を定めています。契約締結日を境として、それ以前の登録料は甲、それ以降は乙が負担することとし、契約締結時に精算することを規定しています。これにより、権利維持コストの負担について明確な基準を設け、後の紛争を防止します。
第5条(表明保証)
甲が乙に対して育成者権の状態について行う保証内容を詳細に規定しています。具体的に、(1)品種登録の有効性、(2)第三者からの無効等の指摘がないこと、(3)訴訟等の手続きが開始されていないこと、(4)第三者との契約による譲渡制限がないことを保証しています。第2項では、これらの保証が育成者権の有効性自体を保証するものではないという限定を付しています。この条項は譲受人保護のための重要な規定です。
第6条(訴訟協力)
育成者権の有効性等が問題となった場合における甲の協力義務を定めています。乙からの要請があれば、甲は必要かつ相当と認める範囲で協力することを約束するものです。この条項は、譲渡後に育成者権に関する紛争が生じた場合の両当事者の協力関係を確保するためのものです。
第7条(解除)
契約解除の条件とその手続きを規定しています。第1項では甲が表明保証に違反した場合の乙による契約解除権を、第2項では一般的な契約違反の場合の解除手続き(催告期間1ヶ月)を定めています。解除権の発動条件と手続きを明確にすることで、契約関係の安定性と適切な是正機会を確保しています。
第8条(合意管轄)
契約に関連する紛争が生じた場合の管轄裁判所を指定しています。本条では特定の地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所としており、訴訟の際の裁判地を予め合意することで、紛争解決の効率化を図っています。