【1】書式概要
この契約書は、山林に生育している立木(立ったままの木)を売買する際に使用される専門的な契約書です。一般的な不動産売買とは異なり、土地は売らずに木だけを売るという特殊な取引形態に対応しています。
林業や木材業界では、山林所有者が自分の土地に生えている木を伐採業者や木材業者に売却することがよくあります。また、建築会社が特定の木材を確保したい場合や、投資家が木材価格の上昇を見込んで立木を購入するケースもあります。さらに、相続などで山林を受け継いだものの管理が困難な場合、立木だけを売却して現金化することもあります。
この契約書の特徴は、木の所有権移転から伐採、搬出までの一連の流れを明確に定めている点です。立木は通常の商品と違って、購入後に買主が自分で伐採し、運び出さなければなりません。そのため、伐採や搬出のための土地使用権、期限の設定、危険負担など、立木売買特有の条項が盛り込まれています。
近年は木材価格の変動や環境問題への関心の高まりから、立木売買の需要も増加しており、トラブルを避けるためにも適切な契約書の作成が重要になっています。
【2】逐条解説
第1条(基本合意)
この条文は契約の根幹を定めています。売主が所有する立木を買主に売り渡すという基本的な合意内容を明記しています。ここで重要なのは、土地ではなく「立木」のみが売買対象であることです。例えば、山林所有者が築30年のヒノキ林を木材業者に売却する場合、土地の所有権は移転せず、木だけが取引対象となります。
第2条(売買代金)
立木の売買代金を定める条文です。通常、立木の価格は材積(立方メートル)や樹種、品質などによって決まります。消費税を別途記載するのは、木材が課税対象であるためです。現在の木材相場では、ヒノキの場合1立方メートルあたり数万円から十数万円程度が相場となっています。
第3条(支払方法)
代金の支払い方法と時期を定めています。手付金を契約時に支払い、残金を引渡し時に支払うという二段階の支払い方式が一般的です。これは、立木の場合、契約から実際の引渡しまでに時間がかかることが多いためです。例えば、雪の多い地域では春まで伐採を待つ必要があります。
第4条(引渡し)
立木の引渡し方法を定めています。立木は動かせないため、現地での引渡しとなります。所有権を明示する立看板の設置は、第三者に対して所有権の変更を示すために重要です。山林では境界が不明確なことも多く、立看板によって買主の所有範囲を明確にします。
第5条(所有権の移転)
立木の所有権がいつ移転するかを定めています。一般的には引渡し時に所有権が移転しますが、これにより買主は引渡し後の立木について完全な権利を得ることになります。台風などの自然災害による損害も、この時点以降は買主の負担となります。
第6条(立木の伐採)
買主が立木を伐採し搬出するための権利と期限を定めています。伐採には重機が必要で、搬出にはトラックが通れる道路も必要です。そのため、売主の土地を使用する権利を明確にしています。期限を設けるのは、長期間放置されると売主に迷惑がかかるためです。林業では、伐採時期を逃すと品質が劣化することもあります。
第7条(契約解除)
契約違反があった場合の解除権を定めています。立木売買では、代金不払いや期限内の搬出ができないなどの問題が生じることがあります。催告期間を設けることで、一方的な契約解除を防ぎ、当事者間の協議による解決を促しています。
第8条(違約金等)
契約違反に対する違約金を定めています。買主が債務不履行の場合は手付金を没収し、売主が債務不履行の場合は手付金の倍額を支払うという、いわゆる「手付倍返し」の仕組みです。これにより、契約の履行を促進し、違反に対する適切な制裁を設けています。
第9条(危険負担)
引渡し前の立木に関する危険負担を定めています。山林では台風、雪害、病虫害など様々なリスクがあります。引渡し前はまだ売主の所有物なので、これらの損害は売主が負担することになります。例えば、契約後引渡し前に台風で立木が倒れた場合、売主がその損害を負担します。
第10条(費用の分担)
契約に要する費用の分担を定めています。立木売買では、契約書作成費用、印紙代、登記費用(必要な場合)などが発生します。当事者双方で折半することで、公平な負担を実現しています。
第11条(協議条項)
契約の解釈に疑義が生じた場合の解決方法を定めています。立木売買は専門性が高く、想定外の事態が発生することもあります。そのような場合には、訴訟ではなく当事者間の協議による解決を優先することで、円滑な取引を促進しています。
第12条(管轄の合意)
紛争が生じた場合の管轄裁判所を定めています。立木売買では、山林の所在地と当事者の住所が離れていることが多いため、あらかじめ管轄を合意しておくことで、紛争解決の迅速化を図っています。通常は売主の本店所在地を管轄する裁判所が選ばれます。