【1】書式概要
本文書「責任限定契約書」は、会社法第427条に基づき、社外取締役の損害賠償責任の限度を設定するための契約書テンプレートです。法令に準拠した内容で、社外取締役が善意かつ重大な過失なく職務を行った場合の責任限度額を定め、責任限定手続きから株主総会での情報開示義務まで詳細に規定しています。
契約書には、社外取締役の地位喪失後も効力が継続する条項や、会社の組織変更時の対応、役員賠償責任保険に関する規定も含まれており、実務上の様々な状況に対応できる構成となっています。また、責任限定を受けられない場合の規定や、新株予約権行使時の取扱いなど、会社法の要件を満たした包括的な内容となっています。
本テンプレートは法的専門家の監修を受けており、会社と社外取締役双方の権利義務関係を明確化し、コーポレートガバナンスの強化と優秀な社外取締役の確保に寄与します。適宜、自社の状況に合わせて修正して利用いただける汎用性の高い雛型です。令和の民法改正にも対応しておりますので、安心してご利用いただけます。
〔条文タイトル〕
第1条(目的)
第2条(法令および定款と本契約との関係)
第3条(責任限定)
第4条(責任限定手続)
第5条(責任限定がなされない場合)
第6条(株主総会に対する情報の開示)
第7条(責任の減免後の退職慰労金等の供与)
第8条(責任の減免後の新株予約権)
第9条(税務処理)
第10条(役員賠償責任保険)
第11条(効力)
第12条(拘束力)
第13条(他の規定に基づく救済)
第14条(契約内容の変更)
第15条(完全合意)
第16条(分離可能性)
第17条(準拠法)
第18条(専属的合意管轄裁判所)
第19条(協議)
【2】逐条解説
第1条(目的)
本条は契約の目的を定めています。会社法第427条に基づき、社外取締役が職務執行において会社に損害を与えた場合の損害賠償責任(会社法第423条第1項)について、その限度額を定めることを目的としています。この規定により、社外取締役の過度なリスク負担を軽減し、優秀な人材の確保を容易にする効果があります。
第2条(法令および定款と本契約との関係)
本条は、契約に定めのない事項については会社法その他の法令および会社の定款に従うことを明確にしています。契約の解釈にあたっては、常に法令や定款の規定が優先されることを意味し、法的安定性を確保する条項です。
第3条(責任限定)
本条は責任限定の具体的な金額を定めています。社外取締役が善意でかつ重大な過失がない場合に限り、責任の上限額を「金●●●万円」と会社法第425条第1項で定める最低責任限度額のいずれか高い金額としています。最低責任限度額は通常、社外取締役の報酬等の2年分相当額となります。実務上は、具体的な金額を記載する際に会社の規模や報酬水準に応じた適切な金額を設定することが重要です。
第4条(責任限定手続)
本条は、社外取締役が責任限定を求める際の具体的な手続きを規定しています。書面による申請、資料の添付、誠実な協議などの手続的要件を定めるとともに、訴訟が提起された場合の対応についても規定しています。特に第3項では、訴訟において社外取締役自らが本契約を援用して責任限定を主張する義務を課し、これを怠った場合には責任限定を受ける権利を喪失するという重要な効果を定めています。
第5条(責任限定がなされない場合)
本条は責任限定が適用されない例外的な場合を規定しています。第1項では、会社が反訴として損害賠償請求を行う場合や、裁判所が責任限定を無効と判断した場合を挙げています。第2項では、会社法第356条第1項第2号の利益相反取引(自己のためにした取引)に関する責任については、限定の対象外とすることを明確にしています。これは会社法の趣旨に沿った重要な例外規定です。
第6条(株主総会に対する情報の開示)
本条は、社外取締役の任務懈怠により会社が損害を受けた場合の株主総会への情報開示義務を定めています。会社法第425条第2項に基づき、損害の概要、契約内容とその締結理由、責任限定された金額などを開示する必要があります。この開示は株主保護と透明性確保の観点から重要であり、社外取締役はこの開示に予め同意することを確認しています。
第7条(責任の減免後の退職慰労金等の供与)
本条は、責任限定を受けた社外取締役に対して退職慰労金等の財産上の利益を与える場合に株主総会の承認が必要であることを規定しています。これは会社法第425条第4項の要件を契約上も明確にしたもので、責任限定と引き換えに不当な利益が供与されることを防止する趣旨があります。
第8条(責任の減免後の新株予約権)
本条は、責任限定を受けた社外取締役が保有する新株予約権の取扱いについて規定しています。第1項では新株予約権の行使や譲渡には株主総会の承認が必要なことを定め、第2項では新株予約権証券の会社への預託義務と返還請求の制限について定めています。これは会社法第425条の趣旨に沿って、責任限定後の不当な利益取得を防止するための措置です。
第9条(税務処理)
本条は、責任限定に関する税務処理は社外取締役自身の責任で行うことを明確にしています。責任限定により生じる税務上の問題(例えば損害賠償額の減額による課税関係など)について、会社ではなく社外取締役が対応するべきことを確認する条項です。
第10条(役員賠償責任保険)
本条は、会社が役員賠償責任保険(D&O保険)に加入するか否か、その内容等を自由に決定できることを確認しています。責任限定契約と役員賠償責任保険は相互補完的な関係にあり、この条項により会社のリスク管理の選択肢を確保しています。
第11条(効力)
本条は契約の効力範囲を定めています。第1項では、社外取締役が業務執行取締役等に就任した場合に契約が将来に向かって効力を失うと規定し、社外性を喪失した場合の対応を明確にしています。第2項では、社外取締役の地位喪失後も、在任中の行為については契約が適用されることを確認しており、退任後の保護を担保しています。
第12条(拘束力)
本条は契約の拘束力について規定しています。第1項では当事者とその承継人に効力が及ぶことを確認し、第2項では会社の合併や会社分割などの組織変更があった場合でも、会社が社外取締役に対して同等の責任限定を与えるよう努力義務を課しています。これは社外取締役の保護を継続的に確保するための規定です。
第13条(他の規定に基づく救済)
本条は、本契約による責任限定と他の法令や定款による責任限定・救済との関係を規定しています。第1項では両者が併存可能であることを確認し、第2項では総株主同意や特別決議等による完全免除がなされた場合には本契約が適用されないことを定めています。これにより、より広範な免責が可能な場合にはそちらが優先することを明確にしています。
第14条(契約内容の変更)
本条は、契約内容の変更は当事者の書面による合意によってのみ可能であることを定めています。これは契約の安定性と明確性を確保するための通常の条項です。
第15条(完全合意)
本条は、本契約が当事者間の完全な合意を構成し、事前の合意等に優先することを定める完全合意条項です。外部の証拠によって契約内容が修正・解釈されることを防ぎ、契約の完結性を確保します。
第16条(分離可能性)
本条は、契約の一部が無効または執行不能と判断された場合でも、残りの部分は有効であることを定める分離可能性条項です。また、無効部分については法的に有効となるよう修正し、本来の趣旨に近い効果を確保する努力義務を定めています。契約全体の有効性を維持するための重要な条項です。
第17条(準拠法)
本条は契約の準拠法を日本法と定めています。国際的な要素を含む場合に特に重要となる条項ですが、純国内の契約でも解釈の基準を明確にする意味があります。
第18条(専属的合意管轄裁判所)
本条は、契約に関する紛争の第一審の専属的合意管轄裁判所を特定の地方裁判所と定めています。訴訟になった場合の予測可能性を高め、当事者の便宜を図る条項です。実際に使用する際には、会社の所在地などを考慮して適切な裁判所を指定します。
第19条(協議)
本条は、契約に定めのない事項や解釈上の疑義が生じた場合の対応として、当事者間の誠実な協議による解決を定めています。予見できない事態に柔軟に対応するための一般的な条項です。