【1】書式概要
この契約書は、特許権を侵害してしまった企業が権利者との間で紛争を穏便に解決するための重要な和解書式です。特許権の侵害が発覚した際、裁判に発展する前に当事者同士で合意に達することで、時間とコストを大幅に削減できる実用的な解決手段となります。
特許権侵害の問題は現代のビジネスにおいて避けて通れない課題です。技術の複雑化により、意図せず他社の特許技術を使用してしまうケースが増加しています。このような状況で裁判となれば、勝敗に関係なく膨大な時間と費用がかかり、企業の経営に深刻な影響を与えかねません。
この和解契約書を使用することで、侵害者側は特許権の有効性を認めた上で、製品の製造・販売を停止し、適切な損害賠償を行うことができます。一方、権利者側は確実な賠償を受けながら、今後の侵害行為を防止できるため、双方にとってメリットのある解決が可能になります。
特に製造業や技術系企業では、他社から特許侵害の指摘を受けた場合の対応策として、この書式を準備しておくことが重要です。また、自社の特許権を他社に侵害された場合の解決手段としても活用できます。改正民法に対応した内容になっているため、現在の契約実務でも安心してご利用いただけます。
【2】条文タイトル
第1条(特許権の有効性承認)
第2条(権利の侵害)
第3条(禁止行為)
第4条(製造工具の引渡し)
第5条(廃棄処分)
第6条(損害賠償金)
第7条(情報開示)
第8条(責任追及)
第9条(清算条項)
第10条(費用負担)
【3】逐条解説
第1条(特許権の有効性承認)
この条項では侵害者が権利者の特許権について、その有効性を明確に認めることを定めています。特許権侵害の紛争では、しばしば「その特許は無効である」という反論が行われますが、和解においてはこの争点を排除し、特許権が確実に存在することを前提として解決を図ります。具体的には特許登録番号と発明の名称を明記することで、対象となる特許を特定します。
第2条(権利の侵害)
侵害者が自社の製品や行為について、権利者の特許技術の範囲に含まれることを認める条項です。ここでは製品名を具体的に記載し、その製造・販売行為が特許権侵害に当たることを明確に承認させます。この承認により、今後同様の製品を製造した場合には故意の侵害行為となり、より厳しい責任追及が可能になります。
第3条(禁止行為)
特許権の存続期間中、侵害製品の製造・販売・輸出入を一切禁止する条項です。特許権は出願から20年間存続するため、その期間中は完全に事業活動を停止しなければなりません。例えば、ある機械部品の特許を侵害していた場合、その部品を使用した製品全体の製造も対象となる可能性があります。
第4条(製造工具の引渡し)
侵害製品の製造に使用していた金型や専用設備を権利者に引き渡すことを定めています。これにより侵害者は物理的に同じ製品を製造できなくなり、確実な再発防止が図られます。プレス金型などの製造設備は高額であることが多いため、侵害者にとっては大きな経済的負担となります。
第5条(廃棄処分)
既に製造済みの侵害製品について、完成品と半製品の全てを権利者立会いの下で廃棄することを義務付けています。市場に流通させることで更なる損害拡大を防ぐとともに、廃棄の事実を権利者が確認することで透明性を確保します。廃棄費用も侵害者の負担となるため、相当な経済的制裁となります。
第6条(損害賠償金)
特許権侵害による損害に対する金銭的補償を定める最も重要な条項です。損害額の算定は複雑ですが、和解では当事者の合意により金額を確定します。支払期限と振込先を明確にし、振込手数料も侵害者負担とすることで、権利者の負担を軽減しています。
第7条(情報開示)
和解成立の事実をホームページで公開することを定めています。これは企業の透明性確保と、今後の類似紛争の抑制効果を狙ったものです。上場企業の場合は適時開示規則との関係も考慮する必要があります。公開のタイミングや内容については事前に十分検討することが重要です。
第8条(責任追及)
侵害者が契約上の義務を履行する限り、権利者は追加の責任追及を行わないことを約束する条項です。これにより侵害者は将来の不安を解消でき、安心して和解に応じることができます。ただし、契約違反があった場合はこの保護は失われ、改めて責任追及される可能性があります。
第9条(清算条項)
この和解契約以外に当事者間に債権債務関係が存在しないことを確認する条項です。これにより紛争の完全な解決が図られ、将来的な蒸し返しを防止できます。特許権侵害以外の問題がある場合は、事前にそれらも含めて解決しておく必要があります。
第10条(費用負担)
契約書作成や公証人費用などの諸費用について、各自が負担することを定めています。通常は侵害者が全額負担することも多いですが、円満な解決を図るため双方負担とするケースもあります。弁護士費用については別途取り決めが必要な場合があります。