【1】書式概要
本テンプレートは、婚約の解消に際して生じる複雑な法的・財産的問題を包括的かつ明確に解決するための専門的な合意書です。改正民法に完全対応しており、婚約解消後のトラブルを法的観点から未然に防ぐための重要な文書として設計されています。
婚約指輪や結納金の返還について詳細な規定を設けており、返還すべき物品の特定や返還期限、方法まで明確に定めることができます。特に贈与物の返還については、改正民法の趣旨に沿った形で、当事者間の公平な解決を図る内容となっています。婚約指輪の種類、素材、特徴を明記する欄や、結納金の正確な金額を記載する欄を設けることで、返還対象物の特定に関するあいまいさを排除しています。
本テンプレートの大きな特長は、婚約期間中に共同で取得した財産の分配方法について詳細に定めている点です。不動産や高額家財、投資商品など様々な共有財産を、「甲の所有」「乙の所有」「売却して折半」など、状況に応じた最適な方法で分配できるよう、柔軟性を持たせた構成になっています。また、住宅ローンやクレジットカード債務などの共同債務についても、明確な負担割合を定めることができます。
さらに、相互の請求権放棄条項により、合意書に記載された事項以外の追加請求を防止し、将来的な紛争リスクを大幅に軽減します。秘密保持条項は、婚約解消の事実やその経緯について第三者への漏洩を防ぐことで、当事者のプライバシーと社会的評価を保護します。
解釈の齟齬や想定外の事態に対応するための協議事項も設けられており、合意書締結後に生じた問題についても誠実な話し合いで解決する指針を示しています。
各条項はカスタマイズ可能であり、婚約期間の長さ、交換された贈与物の価値、共有財産の状況など、それぞれのケースに応じた内容に調整できます。記入例や注釈も充実しており、法律の専門知識がなくても適切に作成できるよう配慮されています。
この合意書テンプレートは、単なる形式的な文書ではなく、両当事者が新たな人生のスタートを切るための重要な橋渡しとなるものです。感情的になりがちな婚約解消の場面において、冷静かつ公平な解決を支援し、将来に禍根を残さない円満な別れを実現するための必須ツールとして、ぜひご活用ください。
〔条文タイトル〕
第1条(婚約の解消)
第2条(婚約指輪の返還)
第3条(結納金の返還)
第4条(返還の期限と方法)
第5条(清算)
第6条(相互の請求権の放棄)
第7条(秘密保持)
第8条(協議事項)
【2】逐条解説
合意書(前文)
解説: 合意書の冒頭部分では、この文書が「甲」と「乙」という当事者間の合意を確認するものであることを明示しています。この部分で両当事者を特定することで、法的な効力の対象を明確にしています。前文は合意書の性質と当事者を定義する重要な役割を果たしています。
第1条(婚約の解消)
解説: この条項では、婚約の解消が両当事者の合意に基づくものであることを明記しています。また、婚約が成立した具体的な日付を記載することで、解消対象となる婚約関係を特定しています。この明確な合意の確認は、後の条項で定める各種返還義務等の前提となる重要な条項です。
第2条(婚約指輪の返還)
解説: 婚約指輪は、婚約の証として贈与されたものであり、婚約が解消された場合には返還の対象となることが一般的です。この条項では、具体的に返還すべき婚約指輪を特定するために、指輪の種類、素材、特徴などの詳細を記載します。これにより、返還対象物に関する紛争を防止します。
改正民法では、婚姻を前提とした贈与(婚約指輪など)について、婚姻が行われなかった場合には返還請求が可能とされており、この条項はその法的考え方に沿ったものです。
第3条(結納金の返還)
解説: 結納金も婚約指輪と同様に、婚姻を前提とした贈与であり、婚約解消の場合には返還の対象となります。この条項では、返還すべき結納金の具体的な金額を明記することで、返還額に関する紛争を防止します。
結納金は日本の伝統的な婚約の証であり、その返還についても明確に定めることが、円満な解決につながります。
第4条(返還の期限と方法)
解説: 返還義務を定めるだけでなく、いつまでに、どのような方法で返還するかを明確にすることで、返還に関する実務的な紛争を防止します。30日以内という期限を設定することで、返還の遅延を防ぎ、早期の解決を図ります。
返還方法についても具体的に記載することで(例:直接手渡し、指定口座への振込など)、返還手続きに関する齟齬を防止します。
第5条(清算)
解説: この条項は、婚約期間中に共同で購入した財産や発生した債務についての処理方法を定めるものです。財産については「甲の所有」「乙の所有」「売却して折半」など、債務については「甲の負担」「乙の負担」「折半して負担」などの形で明確に分配方法を定めます。
この条項は特に重要で、婚約期間が長期に及んだ場合や、共同生活を既に始めていた場合には、共有財産や共同債務が多く発生している可能性があります。これらを明確に整理することで、将来的な紛争を防止します。
また、想定外の財産や債務が発生した場合の協議規定も設けており、包括的な清算を可能にしています。
第6条(相互の請求権の放棄)
解説: この条項は、合意書に明記された事項以外について、互いに一切の請求をしないことを約束するものです。これにより、合意書締結後に「あれも返して欲しい」「これも負担して欲しい」といった追加的な請求が発生することを防止します。
この条項は、婚約解消に関する全ての問題を一括して解決し、その後の関係を法的にクリーンな状態にするための重要な規定です。
第7条(秘密保持)
解説: 婚約解消は個人的かつセンシティブな事柄であり、その内容や経緯が第三者に漏れることで、当事者の社会的評価やプライバシーが侵害される可能性があります。この条項では、合意書の内容および婚約解消に至る経緯について、第三者への漏洩を禁止することで、当事者のプライバシーを保護します。
特にSNSの普及した現代社会においては、このような秘密保持条項の重要性が高まっています。
第8条(協議事項)
解説: 合意書に明記されていない事項や、合意書の解釈に疑義が生じた場合の対応を定める条項です。「甲乙協議の上、誠意をもって解決する」という規定は、予見できない問題が発生した場合にも、互いに誠実に対応することを約束するものです。
この条項は、合意書の不備や想定外の事態に対応するためのセーフティネットとして機能します。
締結部(最終部分)
解説: 合意書の最終部分では、本文書が両当事者の真意に基づくものであることを確認し、各当事者が1通ずつ保有することを明記しています。また、日付と住所、氏名、押印欄を設けることで、合意の成立時期と当事者を明確にしています。
民法改正により契約書への押印義務は緩和されていますが、重要な合意については、証拠として押印があることが望ましいと考えられます。