【1】書式概要
この売却委任契約書は、不動産や動産などの資産を第三者に売却する際に、その売却業務を専門業者や代理人に任せるための契約書です。特に不動産の売却において、オーナー自身が直接買い手を探したり価格交渉を行うことが困難な場合に、この契約書を使用して信頼できる仲介業者や売却代行業者に一連の業務を委託することができます。
2020年4月に施行された改正民法に完全対応しており、従来の民法では曖昧だった報酬の支払い時期について明確な規定を設けています。また、委任者(売主)により有利な条件で作成されているため、売却を依頼する側の権利と利益がしっかりと保護される内容となっています。
実際の使用場面としては、相続により取得した不動産の売却、投資用物件の処分、事業用資産の売却、遠方にある物件の売却などで威力を発揮します。特に売却活動に時間を割けない忙しいビジネスオーナーや、不動産取引の経験が少ない個人の方にとって、プロの力を借りながらも自分の利益をしっかりと確保できる実用的な契約書として活用できます。
【2】条文タイトル
条文構成
第1条(目的)
第2条(完了期限)
第3条(売却価額)
第4条(手数料)
第5条(事務費用)
第6条(委任状)
第7条(解除)
第8条(反社会的勢力の排除)
【3】逐条解説
第1条(目的)
この条項では契約の基本的な枠組みを定めています。売却対象となる資産の所有者が、その売却活動と関連する交渉業務を専門業者に委託する旨を明確にしています。ここでいう「一切の交渉事務」には、買い手候補との価格交渉、売却条件の調整、契約書の準備、決済手続きの調整などが含まれます。例えば、マンションを売却する場合、購入希望者との価格交渉から始まり、引き渡し条件の調整、ローン特約の確認、引き渡し日程の調整まで、売却に関わるすべての業務が対象となります。
第2条(完了期限)
売却業務の完了期限を設定する条項です。この期限設定により、受任者に対して一定の期間内に成果を出すことを求めています。期限を設けることで、だらだらと売却活動が長引くことを防ぎ、委任者の利益を保護しています。実際の運用では、物件の立地や市況を考慮して現実的な期間を設定することが重要です。例えば、都心部の人気エリアなら3ヶ月程度、地方の物件なら6ヶ月から1年程度が一般的でしょう。
第3条(売却価額)
売却価格の下限を設定し、最終的な価格決定には委任者の同意が必要であることを明記しています。これは委任者有利版の特徴的な条項で、受任者が勝手に安い価格で売却してしまうことを防いでいます。例えば、3000万円以上での売却を希望する場合、受任者は2900万円での売却提案があっても委任者の承諾なしには契約を進められません。この仕組みにより、委任者の財産的利益がしっかりと守られています。
第4条(手数料)
成功報酬制の手数料体系と支払い時期を規定しています。改正民法第648条の2では委任契約終了時の報酬支払いが原則とされましたが、この契約では従来通り売却代金の受領後に支払うことを明記しています。これにより、実際に売却代金が入金されるまで手数料を支払う必要がないため、委任者のキャッシュフロー負担が軽減されます。例えば、5000万円で売却が成立し手数料率が3%の場合、150万円の手数料は売却代金の5000万円が実際に入金された後に支払えばよいということです。
第5条(事務費用)
売却活動に必要な諸経費の負担について定めています。重要なのは「事前に許可を得ていた費用に限る」という条件で、これにより想定外の高額な費用請求を防いでいます。広告費、測量費、清掃費などが典型例ですが、例えば50万円の大規模なリフォームが売却に有効だと受任者が判断しても、事前に委任者の承諾を得ていなければその費用は受任者負担となります。この規定により、委任者は予算管理をしっかりと行うことができます。
第6条(委任状)
具体的な交渉相手が決まった段階で、その都度委任状を交付する仕組みを定めています。包括的な委任状ではなく、交渉相手を特定した委任状を段階的に発行することで、委任者のリスクを最小限に抑えています。例えば、A社、B社、C社の3社が購入を検討している場合、それぞれとの交渉時に個別の委任状を発行することで、委任者は交渉の進捗を把握しながら、必要に応じてコントロールを効かせることができます。
第7条(解除)
契約違反や経営悪化などの重大事由が発生した場合の解除事由を列挙しています。通知や催告なしに即座に解除できる仕組みとなっており、委任者を迅速に保護できます。例えば、受任者が約束していた広告活動をまったく行わない場合や、手形の不渡りで経営が危うくなった場合などに、委任者は即座に契約を解除して別の業者に依頼することができます。解除後も損害賠償請求権は残るため、実害が生じた場合の救済も確保されています。
第8条(反社会的勢力の排除)
暴力団等との関係を排除する条項で、現代の契約書では必須となっています。単に現在の関係だけでなく、過去の関係や間接的な関係も含めて幅広く規制しています。例えば、受任者の役員が過去に暴力団関係者と関わりがあった場合や、下請け業者に暴力団関係企業が含まれていることが判明した場合でも、即座に契約解除が可能です。この条項により、委任者は社会的な信用リスクからも保護されることになります。