【1】書式概要
このテンプレートは、アパレル製品のデザインに関する知的財産権紛争を円満に解決するための示談書雛形です。近年、ファッション業界では類似デザインをめぐるトラブルが急増しており、企業間での紛争解決手段として示談による和解が重要な選択肢となっています。
本書式は、デザインの著作権や商標権を侵害された権利者と、侵害行為を行った企業との間で交わす合意書として活用できます。具体的には、無断でデザインを模倣した製品を製造・販売してしまった場合や、類似性の高い商品を市場に投入したことで権利侵害の指摘を受けた際の解決策として使用されます。
アパレルメーカー、ファッションブランド、デザイン事務所などの事業者が直面しがちなデザイン盗用問題に対し、訴訟に発展する前の段階で迅速かつ効率的な解決を図ることができます。損害賠償の支払い方法から再発防止策まで、実務で必要となる要素を網羅的に盛り込んでいるため、法務担当者や企業経営者にとって実用性の高い書式となっています。
Microsoft Word形式で提供されるため、自社の状況に応じて条文の修正や追加が容易に行えます。金額や期日、具体的な商品名などを適宜変更することで、様々なケースに対応可能な柔軟性を持った契約書として活用していただけます。
【2】条文タイトル
第1条(侵害行為の確認) 第2条(侵害の範囲) 第3条(損害賠償) 第4条(遅延損害金) 第5条(侵害行為の中止) 第6条(取引先への通知) 第7条(再発防止措置) 第8条(新製品の事前確認) 第9条(違約金) 第10条(権利不存在の主張の禁止) 第11条(秘密保持) 第12条(関連訴訟等の取下げ) 第13条(権利譲渡の禁止) 第14条(完全合意) 第15条(修正) 第16条(分離可能性) 第17条(準拠法) 第18条(紛争解決) 第19条(信義誠実の原則)
【3】逐条解説
第1条(侵害行為の確認)
この条項では、侵害を行った当事者が自らの行為を明確に認めることを定めています。単に「悪かった」という謝罪ではなく、具体的に著作権や商標権を侵害したという事実を法的に認識していることを示すものです。例えば、人気ブランドのTシャツデザインを無断で真似した製品を販売していた会社が、その行為が権利侵害に当たることを正式に認めるといった場面で重要になります。
第2条(侵害の範囲)
紛争の対象となる商品や期間を明確に区切る条項です。「いつからいつまでの」「どの商品が」侵害に該当するのかを具体的に定めることで、後々の混乱を防ぎます。たとえばバッグのデザインを巡る争いなら、問題となった期間中に製造されたモデル番号を特定し、対象となる権利の登録番号も明記することになります。
第3条(損害賠償)
最も重要な金銭面での解決条件を定める条項です。損害額の算定根拠として、侵害商品の販売数量や単価、本来の権利者が得られたであろう利益などを考慮して金額を決定します。分割払いの場合は支払いスケジュールも詳細に定め、一度でも支払いが遅れれば残額を一括請求できる「期限の利益喪失」条項も盛り込まれています。
第4条(遅延損害金)
支払いが遅れた場合のペナルティを定める条項です。年14.6%という利率は一般的な遅延損害金の水準で、支払いを怠ることのデメリットを明確にしています。これにより、支払義務者が確実に期日を守るインセンティブを与える仕組みとなっています。
第5条(侵害行為の中止)
単に「今後やりません」という約束だけでなく、既に製造した在庫品や製造設備まで廃棄することを求める厳格な条項です。金型や原材料の廃棄まで義務付けることで、将来的な再発の可能性を根本から断つ狙いがあります。廃棄の証明書提出や立入調査まで認める点が特徴的です。
第6条(取引先への通知)
侵害商品が既に流通している場合、販売先にも適切な対応を求める必要があります。小売店や卸売業者に対して侵害商品の販売中止と在庫廃棄を要請し、その実施状況を書面で証明することを義務付けています。
第7条(再発防止措置)
従業員への研修実施や社内規程の整備を通じて、組織全体での意識改革を求める条項です。個人の問題ではなく会社としてのコンプライアンス体制構築を義務付けることで、同様の問題の再発を防ぐ狙いがあります。
第8条(新製品の事前確認)
今後3年間にわたって新商品発売前の事前チェック義務を課す、かなり厳しい条項です。新製品のデザイン画や見本を権利者に提示し、問題がないことの確認を得てから販売することを求めています。事業活動への制約は大きいものの、確実な再発防止策として機能します。
第9条(違約金)
示談条件に違反した場合の金銭的制裁措置です。損害賠償とは別に違約金を設定することで、約束を守らなかった場合の経済的負担を重くし、履行確保を図っています。
第10条(権利不存在の主張の禁止)
示談成立後に「そもそも権利が無効だった」といった後出しの反論を封じる条項です。一度権利侵害を認めた以上、その前提となる権利の有効性を後から争うことはできないというルールを定めています。
第11条(秘密保持)
示談の存在や内容を第三者に漏らさないことを約束する条項です。企業の評判への影響を最小限に抑えたい当事者双方の利益を保護する意味があります。期限を設けず永続的に秘密保持義務が続く点も重要です。
第12条(関連訴訟等の取下げ)
既に提起されている民事訴訟や刑事告訴を取り下げることを定める条項です。示談成立と引き換えに、権利者側が進行中の司法手続きを停止することを約束します。
第13条(権利譲渡の禁止)
示談契約上の地位や権利義務を勝手に第三者に移転することを禁止する条項です。契約の相手方が変わることによる混乱を防ぐ目的があります。
第14条(完全合意)
この示談書がすべての合意内容を包含しており、過去の口約束や暫定的な取り決めは無効であることを明確にする条項です。契約書の内容が最終的で完全な合意であることを確認しています。
第15条(修正)
契約内容を変更する場合は、必ず書面で行うことを定める条項です。口約束による変更を認めないことで、後々の紛争を防ぐ狙いがあります。
第16条(分離可能性)
万が一、契約の一部が無効となっても、その他の条項は有効に存続することを定める条項です。契約全体が無効になるリスクを回避する安全装置的な役割を果たします。
第17条(準拠法)
この契約は日本の法律に基づいて解釈・適用されることを明確にする条項です。国際的な取引でない限り、通常は当然のことですが、明記することで法的な安定性を高めています。
第18条(紛争解決)
示談書の履行を巡って新たな争いが生じた場合の解決手順を定める条項です。まずは話し合いによる解決を試み、それでも解決しない場合は指定された裁判所で争うことになります。
第19条(信義誠実の原則)
契約に明記されていない事項についても、お互いが誠実に対応することを約束する条項です。予想できないトラブルが生じた際の行動指針を示しており、契約の柔軟な運用を可能にする役割があります。
|